シルクスクリーン印刷が紺の布の上に白の顔料が乗っているだけに対して、三河伝統の帆前掛は生成りの専用帆布を紺色の染料で満たされた釜にドブ浸けします。厚い帆布の繊維に染料が染みこみ特有の風合いをみせます。シルクスクリーン印刷と違い、洗濯にも強く、もちろんドブ浸けの染めも洗えば色は次第に薄くなりますが、それがまた本染でしか出せない特有の風合いを醸し出します。生地は巾47cm、スソも切るだけで仕上がるように帆前掛専用に織った物を使い、帯紐も帆前掛専用の細巾織物を使用しています。


時は室町時代。古くなった帆を切って前掛にしたことに帆前掛の名は由来します。テント、靴、鞄、カンバスなどにも使われる素材の帆布は太い綿糸を密に平織りしたもの。帆前掛には巾四七センチメートル、裾を切るだけで仕上がるように織った専用生地を使い、帯紐も専用の細巾織物を使用します。
 重い荷物を移動する現場で、長く愛用され、大正時代には現在に近い形のものが流通し、昭和に入って膝丈で印染めのデザインが定着しました。
豊橋の帆前掛は、元々繊維業が盛んで、織物、染物の職人が揃う中、協力して帆前掛を作ったのが始まりでした。戦後、全国の日本酒、焼酎の蔵元で豊橋の帆前掛が販促ツールとして採用されると、味噌、醤油などの醸造業、食品関係、飼料・肥料、運送業、鉄工業などに広まり、最盛期の豊橋では一日一万枚が出荷されています。
 豊橋伝統の帆前掛は、生地に印(家紋やロゴマークなどの独自の図柄)を生成りの帆布に糊置きし、紺色の染料で満たされた釜に浸けることで繊維に深く染料が染みこみます。
 この染色法はドブ浸けと呼ばれ、表面に色を乗せただけの染と区別して、本染めとも呼ばれます。温度や浸ける時間など、職人のセンスや経験によるところが大きく、現在では主に伝統工芸品の世界で使われている技法です。
 織屋から届いた生地は、まず釜で煮て汚れと不純物を取り除き、染料が染み込む状態に精練。染際をくっきりと美しく仕上げるためにしっかり乾燥させます。
 乾くのを待ち、紗張りした型枠に貼った型紙を通して、白く残す印部分に箆で糊を引きます。この防染糊の配合が仕上がりを左右するため、型紙のデザインを見て糊の固さを変え、気候条件や注文に合わせて配合を調整し、箆も数本を使い分けます。

糊置きの終わった生地は、鉄製の伸子を取り付け、棹に掛けて乾燥させ、染料の釜に浸けると糊置きした部分は染まらず、白く残ります。ドブ浸けの染は白地部分にほんのりと紺の染料が染み、染際にも僅かな滲みが生じます。これが生地と紺地がしっとり馴染んだ、特有の風合いを生み出すことになります。
 使われる硫化染料は藍染めと同じく、空気に触れると酸化して発色。染め上げた後は、しばらく置き、水洗して余分な染料と糊を洗い流し脱水、天日で乾くのを待ち、裁断、縫製し、帯を付けて完成です。
 一方、最近帆前掛の制作で増えているシルクスクリーン印刷は、ドブ浸けに必要な、生地の精錬、乾燥、糊置き、再び乾燥、ドブ浸け、三度目の乾燥という煩雑な工程もなく、そのための職人の技術も必要ありません。 しかし、シルクスクリーンは生地の表面に顔料を乗せるのみで、糸そのものは染まらず、ドブ浸けと比較すると、風合いはまるで違います。シルクスクリーン用に予め染られた生地は均一で機械的な表情を見せ、生地と乗っているだけのインクが馴染まず、インクを通して透ける紺の青が目につきます。
 古くから帆前掛を手がける職人は語ります。
 「機械で紺地に白いインクで文字や印をプリントした前掛がたくさん作られるようになったが、やはり帆前掛は、ドブ浸けが本物だ。」
 これまで帆前掛は、その都度、図柄から制作してきましたが、豊橋伝統の本染帆前掛の復活を目指すWeb Shop「本染帆前掛屋」では、デザイナーが提供する豊富なデザインを予め用意し、名入れも自由にできます。その上、制作枚数も本染では製造工程の煩雑さから受注し辛い、二枚という最小単位でも、織、染の職人の協力で、可能となりました。